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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

おのずから出来た暗黙の誓約によって――これからも屡々おこるであろう家中のことに関するいろいろな工事について――共同しなければならぬ彼らの部落の建設にこういう仕事はぜひとも必要と思われていたからだ。云わばこの度の困難をきりぬけて、松岡長吉には、腕のある棟梁になって貰いたいというのが家中一同の念願であった。自ら出向いて来て、「よろしく配慮を――」と云った主君邦夷の言葉がそれを如実に語っていたのだ。

松岡の鎮まった神経の先々から、これらの事情が浮び出して脳裡に集まって来た。そこからうしろのことは、悔いても取り返しはつかなかった。熱っぽい額の下で、それでは、前にあることを取りあえず解決しなければならぬ――にぶい思案がそう囁くのだ。大部分は目の色に云わせて彼はまた門田を呼んだ。

「あとは左官と屋根の工事だ――代って、やって下されよ」

「うん?――いや、わかっとる」

「おぬしで、充分――もう」

「そうか、充分か」と傍らから念を押すものがあった。

近よって来る声の主をたしかめるまでもなく、言下に松岡は湿んだ眼を伏せるのだ。文句なしに肯定していた。

「そう、そう」

音には出ないで、つぶった眼と額と――繃帯のすき間にあらわれている彼の皮膚の色艶が、間ちがいないと請けあっていた。