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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
「やりましょう」と門田は腕を解いた。
きって落すようなひと声であった。
「いや、いや、そう願わずは立ち行かんところだからのう――何と申しても松岡どのを措いてはおぬしが一番その道にくわしゅうござるで、なおまた、いよいよとなればサッポロあたりから職人を連れてまいるという法もある――それでは」
阿賀妻はそう云った。最後の言葉は指図であった。そして、身を退こうとする阿賀妻を、仰臥した怪我人はとぎれた声で呼びとめた。これだけは聞いておいて貰いたい思いをこめて、あえぎながら云った。
「ご家老――相済みません、身ども、土民どもにも脆くも負けてしまいました」
「なに? 負けたとな?」
「負けました――」と松岡はくりかえして溜め息を吐いた。
蒼ざめた、――腫れた頬肉の底に瞼はきれこんで、堕ちて行くように深く閉じた。それを手繰りあげるように阿賀妻は力をこめて云った。
「それはたわ言!」
彼は家人に目くばせした。それから、怪我人の枕もとの脇差を取りあげて目の上にふって見せ、つづけて云った。
「これを見なさい、この通り、おぬしは抜かずに済ましとる、そこで勝った――今日から土民どもはおぬしの前に手をつくよ、金輪際じゃま立ては致すまいよ」