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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

何かせき立てられていた。そわそわと心せわしくより集まった。菅笠のふちに手をかけて相手の言葉を見ようとした。

「昨夜のご協議のとおり――」と阿賀妻は云った、「どうぞ、おのおの」

六十名に近い家中の老若が動きだした。定められた持場の責任者に指名されていたものが首を立ててこの命令を復唱した。最初に門田与太郎のひきいる小分隊が本隊と切り離された。軽く会釈して、この建築係りの一隊は河畔の請負の工事仕上げにすでに前進を起していた。

分隊の切れ目のうしろは、仮りの住いの家々であった。送って出た女房や子供が連れ立ってこの聚落の出外れまで従いて来ていた。何れにせよ彼らにとってはこれも門出にちがいなかった。定めたことを成し遂げるまでは、なかなか戻って来ることもあるまいとする彼らの倫理が反映して、彼女らもまた、そこまで、そこまで――と送ってとうとうここまで来てしまった。路の上や小屋のかげに膝先ついて、見るような見ないような――そのくせまざまざと自分の大切な人を感じながら静かに控えていた。

阿賀妻は手をひろげて、「明日は一ぱい」とこれらの家族に裕かな身ぶりをして見せた。

「そのところにな――」