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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
そして彼らは、見馴れたいつもの表情に還った。邦夷は遠いところを眺めるような例の湿んだ瞳をして、片隅に積みあげた米俵のあたりに視線を置いていた。阿賀妻は焚火を見ていた。勢いの衰えた焔が、ちょろッ、ちょろッと伸びたり縮んだりしていた。燃えさがった粗朶を草鞋ばきの足先で押しくべながら、阿賀妻は俯向いたまま云った。
「いずれ開拓使からお沙汰がありましょう、が」
「大事ない」
「は?――」と彼は顔をあげた。その決心の言葉が彼の胸を衝いたのだ。所詮そう云って貰わねばならぬ立場に置かれていることは百も承知している彼が、何故かそう云われて却って狼狽するのであった。
「時の勢いとは申しながら」
「まアよい、まだ夜は明けぬかな」
「間もなく」と阿賀妻も腰を浮かした。
彼もまた立って歩いた。夜明けの模様を見るためであった。または、その場にいたたまれない胸苦しさのためであった。
夜明けの来る東の方は茫洋たる平原であった。平原は淡い紫の一色に塗りつぶされて、目の下を画って、遙かな中央の山脈が峰々の曲線を青く浮きあがらせる。朝あけであった。朝のあかるみは、涯しもない遠方からにじむようにひろがって来るのだ。