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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

日と共に徐々に住み馴れた。庭に出ると、お城の楼台が仰がれる。本丸の内にあった昔の屋敷も見とおすことが出来るのだが、それさえ深くは胸に応えぬほど、この片隅の暮しにも馴れた。

しかし、帰って来た主らはこの有様をどう見るだろう。

お館にいたものはみんな揃ってご門の前に出た。ながく待つまでもなかった。塗笠に割り羽織のすらりとした邦夷を先頭に、まげを落した平服の阿賀妻らが近づいて来るのだ。おお、おお――と、おろおろしながら遠くの方へ会釈を送った。気づいたようでもあり気づかなかったようにも見受けられた。気づこうが気づくまいが、そんなことはどうでもよかった。出迎えに立ったものたちは、頭を低げたり手をふったりせずにはおれない。血肉が沸き立たっていた。彼らの顔がほの白く見えだすと、どッと叫んだ。先方も手をあげた。邦夷も塗り笠を取った。

駈けだした若党がそれを受け取っていた。

晩秋の宵やみは、深い水色となって四周を冷たく浸すのであった。したがって、なかなか表情は見えなかった。しかし一足ごとに近づいて、とうとう見た。表情のない表情を。それでもこみあげて来る切ないものを、夫人は圧えにおさえ、遂に堪えきれなくなって顔を俯伏せた。