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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

燭台には灯がはいっていた。秋の夜の冷気を防ぐためでもあろうか、障子の前には屏風が立てまわされていた。

帰って来た主君を正面の座にすえて、神山外記はしも手にさがって、改めて挨拶をした。

「お待ちしておりましたぞ、殿――」

腰のものをそれぞれ抜き取って傍らに置き、身体を楽にしながら邦夷は答えた。

「なかなか思ったようにはまいらぬものじゃ」

「しかし、殿――」と外記は顔をあげて云った、「もはや遅うございました」

「そう云ったものでもない、――ほう」と邦夷は外記のしわくちゃな顔を見つめた。

「おぬし、歯がぬけたのか」

「はは――歯も抜けますれば白毛も殖えます、甲斐なく生き残ったこの老ぼれめ」

「変ったことは無かったか」

「変らぬことが何ひとつございましょう――殿のこのお帰りが、せめてふた月ほど早かったならば、と、身どもら、どれほどそれをお待ちしたことか」

「ふん」と邦夷は焦点のない眼を唐紙の南画にのせかけた。残っていた家老のこの言葉が、ふいにがんがんと彼の耳にとびこんで来たのだ。

「廃藩置県が布告されました」

「それは存じている」

「さようでございますか、そのときお殿さま方はすべて華族に列せられたのでした、それならば、なぜ身どもらのお殿さまが例外であらねばなりませぬのか、戊辰以後の進退に関すると云われるならば、拙者ら生命を賭して誠意