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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
麻かみしもに威儀をただした神山外記は、あたりに眼をくばりながらこの座敷にやって来るところであった。一種のもやもやとした重い空気のようなものが立てこめていた。これは殿の帰着を機会にして呼吸づまるほど濃くなっていた。何としてでも――どういう手段によってでも、この場合に於いて発散させて了わなければならぬものであった。とにもかくにも、一藩の重役である神山外記にこの気配が見えぬわけは無かった。彼は吉原兵太郎の肩をたたいてまアまアと後戻りさせた。
「おそろいでござるな」
「はア――」
「ながく待たれたか」
彼は誰にともなくそう云って、床の間わきの座について云った。
「遠路の旅で、ご辛労のことでございましたろう、それにしても」
彼はまたせかせかと立った。思いだしたように障子の外に出て呼んだ。
「これ!」
しわがれた、使い古しのような彼の声がひろがっただけだ。返事は無かった。
彼は提げていた刀をすとッと腰におとし、そこの座敷廊下に立ちはだかるようにして手を拍った。座敷にたまっていた人々の声も静かになった。かしわ手の鋭い音は、屋根の下一ぱいにたッたッと突きぬけて行った。
女のほそい声が、それに答えて近づいて来た。