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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

瞼はもう離れようとしなかった。意識は何も受けつけないのだ。蹣跚とした大広間の往復が、自席に着いてどっと疲労を呼びおこした。彼は潰えるように横になった。肱枕に他の手を添えた。

「篠崎どの――ご前でござるよ、篠崎どの」

しっかりしたものが腰をゆすった。

「うるさい――」とそれをふり払って、目を閉じたまま彼は大きな声で云った。

「ご前が何だ、昔のはなしだ」

うたごえと撥の音と、あちこちに出来た塊りでは喧ましい話しごえが沸り立って、はるか下座のこの老人の言葉などは揉みくたにされていた。

誰にも聞きこまれないうち消えていた。はッと周囲を見まわしたあたりのものは、しかし、目を細めて正座を見やるのである。邦夷はそこに、先程からの同じ姿勢で坐っていた。――坐っているというよりも、置かれているという感じであった。この人の五官だけは、冷たい正常な刺激を享けていた。

あとは、杯盤狼藉の一歩手前であった。人いきれと酒肴の臭気と――それに畳のほこりも混って、生ぬるい広間の空気は何か朦朧としている。耳と目の感覚が上ずっている。

阿賀妻は隅の方で、手酌で傾けていた。

――もっとも大切な重大問題をそのままにして宴は進んでいたのだ。