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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

酒は人格をかえた。もっとも、邦夷の前でそれを断言したとき、彼の胸の底に火が噴いていた。いどみかかろうとするものがあった。酒はこの気持に道をひらいた。

彼は導かれるままにやって来た。何もかにも承知の上でのこのこ乗りだした。うずうずと、われとわが身を危地にさらして、も一度おのれの何ものであるかを、ぎりぎりの所で験してみたい欲望に燃えたのだ。

閉めきった部屋の空気が、全身をほてらせる。湿した唇を咥え、眼をすえて構えている。握りしめた手には静脈がふくれ上って、どくっどくっと血が流れた。

「ご容赦――」

「うん」と彼は立ちはだかった。

襖が開いた。すっすっと彼らがはいって来た。

襖のひと側に一列にならんで座についた。くらい灯のために、顔かたちも見わけ兼ねる。そして、その中の一人が押し出されるように膝行して進んで来た。

「失礼ながら」

そう云って、捧げていたものをどさっと置いた。あたかも重量のあるもののように据えて、急いで後にさがった。それは、しら木の三方なのだ。白い紙が敷かれていた。白い晒し木綿に包まれた短刀の刃先が魚の腹のように光っていた。

うす暗い灯かげの下では、人は影のように揺れうごいた。