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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

陽光をさえぎったこの不自然なうす暗がりがいけないのだ。傍らに夜具を並べた大沼喜三郎は、目をぱちくりさせていた。

「お目ざめか?」と阿賀妻は起きあがった。

「はあ――せせらぎの音が聞えますな」

「さよう、裏には清冽な泉が湧いております」

そう云って、彼は立って廻廊に出て雨戸をくった。さわやかな光がま横から夜を薙ぎたおして行った。朝の陽光はほつれた髪にあたって黄色く散らばった。

音をききつけて下ばたらきのものが駈けつけた。あとを任せて彼らは手洗におりた。

泉水はもうもうと煙りのような水気を立てている。

座敷はその間に片づけられ、隠居は一服喫いつけて二人を待っていた。倖いに日が照って、庭に向いた障子は閉めきるほど寒くは無かった。そこからまッ直ぐ向うに門があって、開けたならば、さむざむとした秋の田圃が、東南に、一帯に少しずつ低くなって、一望のうちに見わたせるはずであった。

あかるい顔で都築老人は二人を迎え入れた。

「生れ故郷の寝心地は悪うあるまいが」

「くつわの音もとんと聞えませなんだ」と大沼喜三郎が答えた。

座についた彼らに、はいって来て女中が茶を淹れた。彼女はさがりがてに、膝まずいて障子を閉めようとした。