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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

九

甚助はそう云われて往来に出た。彼ははじめて見る大きな街のなかに、阿賀妻のあとを追って、漠然と歩きだしていた。

九

汗ばむほどいそいでやって来た。

大きな山門の下に踏み入れると、あたりは急に寒けだつのだ。古びた松の樹が物々しく影をおとして、空たかく風に鳴っていた。

羅卒が目の前に立ちふさがった。

「どこへ行く?」

彼がそう云ったのと阿賀妻がたずねたのが同時であった。

「開拓使はどのへんか?」

二人は思いきりお互いを軽蔑していた。向いあって、その気持を露骨に出しながら、じろじろ眺めていた。二つの時代の極端な対比であった。一方はとにかく、洋服を着け靴をはいた。しかし他方は、割羽織に大小を帯びて草鞋がけであった。そして、彼らは双方とも、身についたその横柄さから、反射的に、前の時代には同じ身分の士族であったことを感じ取った。すると阿賀妻は、それが同じ身分であったから一層、身の安全のために節を無反省に売ったものに対するけがらわしさを覚えた。彼はペッと唾を吐きとばした。

「何の用か」と、羅卒はそこからうごかずに云った。

「おぬしに関係はなかろうが――」

「どこから来たのか」