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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「はア? うん、そうですか、監事に昇進なされたか――掘どのは?」

「めずらしい出世でございます」

「なるほど」

「それと云うのも、北方の問題を運転するに、あの仁以外に適任者も無いからでございましょう、お聞き及びでございましたか、この度――丸山作楽一派の陰謀」

町には、いッとき落日の明るさが路次々々にあふれていた。最後の光芒が、すすけた屋根ひさしをけばけばしく隈取っていた。駈けまわる子供らの疳だかいこえがさざめいている。物売りの呼び声が遠ざかって行きながら、鼠色の宵やみをその背中に流すのであった。犬がどこかで吠えていた。大八車ががらがらと駈け抜けた。

見渡す家々がうす黒く宵やみのなかに沈んで、空だけがしばらく青々と明るく、遠くの方は都会の屋根にまじって靄になっていた。風がすべて死んで、いそがしい物音がみんな聞え、すると、何も聞えぬ森のなかのように静かなのだ。この家のなかに、人の邪魔になるほどの大ごえも立てずに人々は生きて来た。さきの外務大丞たる丸山作楽が、憤りのあまり、昼提灯に白装束で軟弱外交をののしって歩いても、人々は次の日には忘れている。おそれるのは、その軟弱方針の裏書をしてやった開拓使だけであった。