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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
この集団移住を率先してひきいている彼らの主君がそこにいなければ、口を極めて罵ったかも知れない。――云うまでもなかった。憐愍をあたえるような態度で土地選定を慫慂した馬上の男は、ともに天をいただかずとした薩派系の人物であったことだ。しかしそれも、時と所が変っていた。前途をきり拓こうと腐心している阿賀妻らの態度と、それを不甲斐なく見るもののあるのも是非ないことであろう。
はげしい時代の動きは、家中の地位によって概ね二派の意見を醸すのであった。陰に陽にあらそいながら、行くべきところに行き着きかけていた。そういうところへひょっこり現われた一つの躓きが、沈んでいた反目をまたしても掻き立てるのである。玉目三郎の不満げな態度がそれを代表していた。お互いの心をすみずみまで知っているのは旧主であった。家中のものは彼の顔色を注視した。――裁断を待つのである。
古く泥んだ仕来りによって、「殿――」と仰がれていたその人の胸のうちほど複雑なものはあるまい。痩せた土地を投げつけるように与えられ、じっと我慢していた彼らの気持の大根には、こういう旧主の心遣いが貫ぬいていたのである。