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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
と主婦は答えた。もはや旅人に扱われていた。とつおいつの暇もなかった。せわしさに泣くのも忘れていた。
近所のものはどんどん荷づくりを手つだうのだ。
その日はどんより曇っていた。春先の水気が、あたりの空気を重たくしていた。彼らは手足まといの家族どもをせき立てて八幡社に集って来た。旅馴れた邦夷らは拝殿のきざはしに腰をおろして彼らを待っていた。荷を積んだ駄馬は自然にうしろに並んで、家族はそれぞれ、自分の戸主を囲んで塊まるように佇むのであった。その男たちは大ごえに話しあっていた。ここまで来れば、気持は落ち着いていた。くどくど云っていた見送りのものは、遠慮して集まりの外に出た。
邦夷は、ふと腰をあげて、彼らの間にはいって行った。集まったものの顔が見たかった。声をかけて力づけたかったのである。かいがいしく身支度をした女どもに、そのけなげさを喜んでみせたかった。
しかし彼は結局何ひとつ口にださなかった。そのためこの巡廻は、まるで、これから出かける一隊の準備をその指揮者が検閲したような結果になった。人々はあわてて口をつぐむのだ。ひそかに、つづいて命ぜられる進発の合図を待つのであった。