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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
と阿賀妻が云った、「先の便に托しまして、こちらの大体の予定だけは知らせてやりましたが」
「そうか、それはよかった、首を長うして待っておるに相違ない」
――その一団とこれとを合せて、それだけを基礎にして、邦夷らの新たな生涯がはじまろうとしている。
「われらの行きつくトウベツの地と申すのは――」と邦夷は語りだした。
どこか遠方を見ているような例の眼を船の小窓に置いて、彼はその地の空と樹と草との清新さを描きだすのであった。その一つ一つ――どれもこれも、未だこの世に、人間のあることをさえ知らなかった。そういう汚れない処女地に、彼らの手がはじめて触れるのである。自然の土は、彼らの思いのままになるか、または逆らうか、それは手をつけてみなければ判らない。ただこれだけは云えるのだ、――誰に妨げられることもなく彼らは、彼らの意のままに、すべての膂力と意力を傾けてたたかうことが出来る、征服するか、それともこちらが斃れるか、ぎりぎりで挑むことが出来るであろう。そこまで徹するのが、これが、さむらいの本望であった。
ふいにま上で蒸笛が鳴り渡った。話はとぎれた。いよいよ出帆であった。