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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

ふッと頼りない思いに憑かれたのだ。この川がどこであるかと訊くのは、彼ではなく自分でなければなるまい。

「お若いの」と、鋸屋はひき寄せるようにそう云った、「こうして、じーッと耳を傾けてンと、この下で瀬の音が聞えてますね、大きな川だ、聞いてみなさい」

「イシカリ川か?」

「多分――そういったことになるンでがしょうな」

「そうかなあ――そうかも知れぬ」

高倉は、歩いて来た方角と距離と、その風当りとを、思い浮べるように考えていた。峠に立ったときからのながい時間も思い合しているのだ。背中に西北の烈風を受けて、――まるで押し流されるようにめちゃくちゃに歩いた。そう云えば、樹のないのっぺらぼうの原野であったとも推測される。

「じゃ、急ごう――」と彼は云った。

「だいじょうぶでがすか」

鋸屋はのろのろと立ちあがった。

二人は崖に沿うて進むのであった。そして、風を防いでくれるこの懸崖をイシカリ川の岸壁と思いこんでいた。従って彼らの目的地は、この川筋の先方に在るわけだと思った。凍結した氷上はむしろ歩き易いであろう。

しかし、行けども行けどもそれらしい地点には出会わないのだ。折れ曲るべきトウベツの川と覚しいものも見つからなかった。