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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

吹雪の音が潮騒のように聞えた。かッと目をひらいた。闇と雪のなかであった。記憶はごたごたになって、時間の差がなくなっていた。それでも彼は憶いだした。連れがあった筈だ。足許にたおれていた筈だ。彼は這いまわった。吹きつける風によちよちしながら、手を雪にさし込んで掻きまわした。捜しだした。それはぬるりと――そんな気がした――指先に触れた。なぜか、ここにあったと思った。

「睡ると死ぬぞ、おい、おい――」

彼はそう叫んで引っぱった。両手に首根ッこを掴んだ。後向きに、雪のうえを、まるで蟻が獲ものを運ぶように、蹣跚とした。ようやくまた穴にかえった。一呼吸入れて、それから彼は横に寝ているものを揺ぶった。

「おい」

「――――」

「おーい」と声をたかめた。

「――――」

「鋸屋ア、行商ウ、おーい、越後の、鋸屋ア――」

「――――」

「睡ったか――きさまア、死ぬぞ」と、高倉は形相をかえて立ちあがった。

「目を醒ませッ! うぬ」

そう叫んだ彼も、自ら気がつかずに狂いかけていたのかも知れない。彼は手をあげて鋸屋の頬桁をなぐりつけた。足をあげてその腰骨を蹴りつけた。何か大ごえに喚いていた。前後を考える余裕もない。