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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
だが、二人が同行者であるならば、死なば諸共であるべきだとも思いかえした。行商人にとって、たった一本の書面を托されたことが死に値いするほどの責任だったか――と、泣きたくなる。家中の一人の女に子供が生れるということが、一匹の男をこういう苦境に追いこむほど重要であるか、――と、反問したくなる。むなしく死んだ鋸屋も、やがて二三刻の後には呼吸絶えるかも知れない自分も、これではあまりに惨めすぎる。尾花を幽霊と見るほどに、何かに畏言していたのではあるまいか――彼は亡父のことを憶いだした。彼が死のうが死ぬまいが、事態はなるようにしかならなかったろう。そういうつまらぬ――まさに犬死をした彼は、あれで満足し瞑目し得ただろうか――そう考えるのであった。
彼は鋸屋の荷物を入口に立てた。幾らかでも風の侵入を防ぐためであった。何かしていなければ、それはもう、頽れるような眠さであった。彼は鋸屋の背負ごの底をさぐって見た。帳面らしい一包みがあった。その横には、手触りで判る飯籠があった。この藁づとの中の空気に両方の掌をさし入れて、ここだけには、ほのかに蓄えられていた温かみを掻きまわすのだ。