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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「なかなか――」

「これがわれらのトウベツの水」

「はッは」

「云われました、ようこそ」

それでは――と、大きな鉄瓶から熱い湯を茶碗に注いで、がやがやとうしろに送った。

松岡長吉らはそういう騒ぎのところに帰りついた。

深夜の風とともにひやりとはいって来た。提灯を吹き消して額の汗をぬぐった。

「お連れしました」と、彼は正面の相田に云って戸外をふり返った、「どうぞ、――」

「ご苦労、ご苦労――」

相田清祐は草履をつっかけて土間に立った。この時刻に、ようこそ役人を連れてまいった、これで解決はついた――彼はそう勇み立っていた。

羽織袴ではいって来たのはあの役人であった。彼が鋸屋に書面を托したのだ。彼はその男の泊った諸国商人宿の主人を呼びだした。たらば蟹のような顔をした宿屋の主人は眼をしばだたいた。進んで同行しようと云うのであった。哀しみは、顧客を喪ったことだけではなかった。季節になるとやって来る行商人は――たとえば、富山の薬屋にしても堺の刃物屋にしても、それはそれだけで深い仲間をつくっていた。寝る場所も、あの町ではあの宿、この湾ではこの旅籠と決っていた。その界隈を商い歩く間、宿屋は彼のうちであった。