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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

しかし、こういうことは二度とあるわけのものでもなし、おれとしてベストをつくすことにしたわけだ」

母の体の調子がわるくて、上陸することのできなかったナポリの港で、停泊している船のデッキから夜のナポリの街の美しい灯のきらめきを眺めながら、父が涙をこぼしていた、という小枝の話は、それをきいたとき、伸子の心をかきみだした。そのような父の感傷の動機も、今夜の話で、思いやられるところがあった。父はこんどの旅行で、どんなに多計代を主にして行動する決心でいるか、そのためにどれほど自分の自由をためているか。それにくらべればよそよそしさのある心でいる自分を伸子はすまなく感じた。

でも、それほどの泰造の心づくしは、それなり多計代にそっくり通じているのだろうか。和一郎が、納得していないというのだろうか。泰造の頭をマッサージしている伸子の手先が思わずとまった。

「お父様、そのお気持を和一郎さんたちに、ちゃんとお話になったことがあるの?」

泰造は咳ばらいした。

「――和一郎にだって、十分わかっているはずだ」

しかし、それは確信のない答えかただった。

伸子は、またマッサージをつづけた。