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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

十四

そして、リュックスの表ドアをはいった。受付の男は、はじめて伸子が来たときにいた男だった。彼は、事務的に伸子の旅券をあずかった。

二階の廊下に、きょうもかすかにシチのにおいが漂っている。けれども、アルミニュームの鍋をもって通りがかる女のひとに出会わず、伸子は、もう一つ曲ったところにあるうす暗い廊下で山上元のドアをたたいた。

きょうはタイプライターが片づけられている。出窓のところに干されている婦人靴下もなかった。出窓は、そろそろ六月になろうとする季節に向って二重ガラスの内側があくようになって、この前そこいらにあったごたついた品は、さっぱり整理されている。

山上元は、伸子を見るとすぐ、

「けさ、川瀬がよったろう?」

ときいた。

「よって下さいました。それで上ったんですけれど……」

「うん。――まあ、そこへかけなさい」

山上元は、伸子と向いあってかけ、ズボンのポケットへ両手をいれて、テーブルの下へずっと両脚をのばした。初夏めいた明るい光線で、山上元の下瞼についているふくろが、伸子にはっきり見えた。

社交的な無駄ばなしに馴れていない人の、ぶっきら棒な調子で、

「『戦旗』