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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十四
そのカフェーの中にいるのは、踊っている組も、壁ぎわのテーブルに腰かけて見ているのも、女ばかりだった。同じように断髪の頭だけれども、スーツを着てネクタイをたらした女と絹のワンピースを着た女とが組んで踊っていて、スーツとワンピース半々の数だった。
照明のはっきりしないカフェーのなかで、レコードの廻転度数をおとしたようなフォックストロットがもの憂げに鳴った。踊っている組でも、その動作にも顔色にも華やいだ興奮の雰囲気はなかった。
「なるほど、ここはかわってる」
素子が、しばらく店内を見まわしていたあげくに云った。
「みんな商売人ですか」
「どうなんだろう」
「こんなにしていて気が向けば、どっかへ行くってわけなんだろうか」
「そうなんだろう。――こういう連中は大抵コカイン中毒でひどいんだ。――大戦後のドイツにはこんなことがひどいんだ」
伸子は話をききながら、好奇心と嫌悪のまじりあった感情で、ぐるりにいる女の群を見た。スーツを着ている女、このカフェーの特色である女で女の対手をする女は、どれも瘠せていて、云い合わせたように顔色がわるかった。そして、うすい顎の線が目立った。