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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
三
佐々のものたちは、その僅の間をいそいでホールへすべりこんだ。みんなについてエレヴェーターのところへ行こうとしていた伸子は、門番の住居の小窓から、
「マドモアゼール」
とよびとめられた。
玄関に向ってあいている門番の小窓には、背後から橙色のスタンドの光を浴びて、カラーなしのシャツ姿の爺さんが首を出していた。
「ヴォア・ラ! あなたへ、電報」
細長くたたんである紙をさし出した。伸子は、不安なような、全く不安のないような変な気分で、それをうけとった。
「ありがとう」
心づけを爺さんの手のひらにのせて、伸子はうちのものの佇んでいるエレヴェーターのところへ行った。
「――おや、電報かい?」
多計代が、神経質にまばたきした。
「わたしのところへ来たのよ」
「吉見さんだろう」
素子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ着いたとき、ロンドンのホテルあてに伸子に電報をよこしたし、伸子たちがペレールへかえってすぐのときも、電報をよこした。ぶこ、かわりないか、やど知らせ、と、ローマ字で書いて。手紙の往復の間をまちきれない素子のこころもちが、その電文に溢れていた。いまも、伸子は、七分どおりモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)からだろうときめて、おどろかずに電報をうけとったのであった。