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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十
トロッコのレールが掘りかえされた地面の上を走っていて、人々の歩くところだけやっと歩道ができている。そこに、木造の、粗末だけれども清潔なキャフェテリア(自分で給仕する方式)の大食堂や、簡単な日用品の売店があって、本建築の仕上った本館は、すこしはなれたところに灰色と白で、清楚な四角い姿を浮き上らせていた。アトリエのようにガラスの面がひろくて、天井の低い新様式の室の窓から、建設のためにごったかえしている敷地を眺めながら、渋い結城紬の袷とついの羽織を重ねた日本の学者が、宗教哲学の話などをしている。伸子は、それらの人々から、ガラスの中にはいっている翼の大きい黒い鳥というような印象をうけた。留学生と云っても、その日その室に集った人たちは、みんな相当の年配で、日本には家庭があり、子供のある人たちだった。国際学生会館の一室にかたまって、これらの人々は論理的に、あるいは頭脳的に、愉しくあろうとしている風だった。けれども、ただ一人の女としてその座に加っている伸子の直感は、そこにかもしだされている空気に、みんなのもちよっている無意識のかわきがあることを、感じずにいられなかった。