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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十二
妻であった五年の間に、日本の権力が伸子の公然たる結婚に対して与えたものは、いくばくのものであったろうか、と。妻になったということで法律上の人格がうばわれたほかに、伸子のうけた社会的存在のしるしは、佃の月給に二十五円ずつ加えられていた家族手当と、年に四俵か五俵、独身者よりもよけいに学校からわけられる炭俵だけだった、と。
十二
葡萄の房でも眺めるように、伸子は枕に仰向いている顔の上へ両手で一対の耳飾りをつまみあげて見ていた。ちょうど伸子の小指のさきほどある紫水晶が金台の上にぷっちりとのっていて、その紫から滴りおちたひとしずくの露という風情に小粒なダイアモンドがあしらわれている。大きな紫水晶の粒は非常に純粋で、伸子のベッドの頭の方からさしこんでいる雪明りに透かすと、美しい葡萄の実のように重みのある濃い暗紅の光を閃かせている。
いかにもモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の富裕な商人の妻の耳につけられたものらしい趣味のその耳飾りは、伸子の誕生日の祝いに、素子が買って来てくれたものだった。そのままでは伸子に使いようがないから、二つの耳飾りを一つにつないでブローチにこしらえ直すという素子の計画だった。