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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

八

けれども、伸子たちには中館の住所も川瀬の住居も告げられていなかった。これらの人々の日常生活の内容についても、伸子たちとしては自分たちに会っているときの彼ら、伸子たちと行動している間の彼らのことしか、知らないのだった。しかし、ベルリンでは日本人の間にそういうつき合いかたがあるのも伸子と素子とに、不自然でなくうけとられた。

八

生れた国のなかで、会ったこともなければ噂をきいたこともなかった親戚同士が、外国の都で偶然おちあって、つき合いはじめるというのは、おかしなことだった。古い日本がつたえて来た義理がたい親類づきあいの習慣は、佐々の家庭ではいつとはなしにこわれて来ていた。そのくせ、外国で偶然同じ都会にいあわせたりすると、日本人同士というせまさから双方を近くに見て、多計代らしくベルリンにいる母方のまたいとこ、医学博士の津山進治郎に、伸子のことについて連絡してあった。

ベルリンの地下鉄が、ウェステンドあたりで高架線にかわる。そこのとある街で、大学教授の未亡人の家とかに下宿している津山進治郎と伸子が初対面したのは、主に儀礼的な動機だった。ところが、伸子は彼から思いがけないたのみを受けた。