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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
十三
いた。
蒲原のかりた室は、ひどく脂じみていて床の一部は腐っていた。
「モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)には、むずかしい規則があるんだそうで、僕はここで借室人ではないんです、泊り客というわけなんです」
「なるほどね。お客をとめるにしちゃちょっとひどすぎるけれど、絵をかく人なんだから、ホテルになんぞいるよりずっといいですよ。ホテルじゃ画なんか描けっこないさ。雰囲気がないんだもの」
「そうなんです」
蒲原は、伸子たちのところを出た動機が、素子にも自然に理解されていることを満足そうにうなずいた。
「おまけに、僕自身、少々、まとまりよく出来すぎているんです。――芸術家として、マイナスだと思うけれど、生れつきかなあ」
「ふ、ふ」
素子が好意とからかいとを交ぜて若者を見る、年かさの女の眼で蒲原を見た。
「それできみが芸術家きどりだったりしたら、一日でわれわれのところはおはらいばこさね」
蒲原は、意識してか意識しないでか、伸子と素子と、どちらに対しても、中性的な存在として暮したのだった。
補助ベッドがとりはらわれて、伸子たちの部屋は久しぶりにひろびろした。何もなくなった床のそのところに窓からの朝日がさしこんでいる。