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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

十三

案内役をかねた運転手も、その店の一方の隅のテーブルで食事をし、いまはタバコをくわえて男たちばかりの仲間でカード遊びをしている。

同行の男のひとたちをタバコの煙のなかにおいて、伸子はすこしはなれた長椅子のところで脚をのばしているのだった。タイルで床をはられた店内に、あまり十分でない明りにてらされている十三四人の人間がその夜ヴェルダンで生きている人間のすべてであるようだった。

マース河の河岸よりにひとかたまり旧ヴェルダン市の破片がのこっていて、そこに土産物を売る店があった。ごたごたしたその小店とその内に動いていた人々の姿を思い浮べることができるが、その河岸の店の灯の色と伸子がいるカフェー・レストランの内部との間には、深い沈黙の夜がひろがっている。

生きているもののない夜の沈黙の深さは、何と独特な感じだろう。六人の日本人はみんな口かずの少い一日をすごした。一日の周覧を終って、いくらか葡萄酒のほてりが顔色にあらわれていても、男のひとたちのテーブルから笑声は立たなかった。どこでも同じことだなあ。一将功なって万骨枯る、というのはまったくだ。ドゥモンの要塞から下って来るとき、一行のうちの誰かが感じふかそうにつぶやいた。