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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
四
素子は、これで眠れるのかもしれない。――
伸子は、ホテルのせまいその一室の寝台から離れた、――フランス風の露台のところに、クッションをしいて坐っていた。伸子も、くたびれていた。
歯の痛くなったのが、日曜日のきょうだったのはほんとに途方にくれることだった。ゆうべ、すこし怪しいと云って食塩水でうがいをしてねた素子は、けさ、七時ごろ、
「ぶこちゃん、おきておくれ」
と、自分の寝台から伸子をおこした。
「歯が痛んでやりきれない。明け方から待ってた。――もう磯崎君のところだって起きただろう。医者をきいてきて――」
伸子は、おこされた途端、その日が日曜日だということを思い出さなかった。いそいで着換えをして、ヴォージラールの通りへ出た。朝がまだ早いと云ってももう間もなく八時だから、いつもなら歩道を足早に行く通勤人が多い時刻だった。けさは、どうしたのかひろい通りを下手へヴェルサイユ門の方へ見わたしても、上手を見やっても、プラタナスの緑の並木の梢に朝の光がちらついているばかりで、街はひっそりしている。伸子はホテルの前の歩道にたたずんで、タクシーの通りかかるのをまった。あいにく、そのタクシーも、けさは一台も走っていない。