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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「お姉さまを、ぜひ一度およびしなくちゃって云っていたのよ、ほんとにいろいろ御心配かけちまったんですもの」

「姉さんたちも、もう一週間ぐらいで行っちまうとすると、あんまり日がないから、いっそ早い方がいいかと思って」

和一郎夫婦は、半年ばかりロンドンに滞在することに決定して、先発した親たちが適当と思う下宿を見つけ次第、知らせをうけて出発することになっていた。伸子が、親たちと一緒に立たず、わずか一週間でも自分たちだけおくらしたのは、伸子のこころもちの切実な要求からだった。親たちがパリへ来てから、ペレールの家へ日参するようになってから、伸子の時間と精力とは、東京の家からそのままパリまでもちこされてついて来ている佐々一家の、家庭的ないざこざの中で費された。多計代の性格がかわらず、和一郎が和一郎であるかぎり、そして、おそらくは伸子も伸子であるかぎりは、循環小数のように、あるいは無為な人々にとってのスポーツででもあるかのように、いくらでも繰返される深刻そうで他愛のないごたつきに、伸子はあき疲れた。ペレールのアパルトマンのそとの世界には重大な事件があとからあとからとおこっていた。