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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
細い手に黒いすかしレースの指なし手袋まではめているこの人形は、その服装の約束どおり、左の頬の下にかき黒子をつけている。その人形は、多計代の気に入った。さて、きょう、午後三時二十七分に北停車場から立つという昼ごろになって、そのかさばる人形をどうやって手荷物の一つとしてもってゆくかが問題になった。伸子は外へ出た。そして柳製の長方形の軽い大籠を見つけて来た。この間磯崎須美子とプランタンで鞄をさがしていたとき、その売場のどこかに、そういう籠のつんであるのを見たことを思い出したのだった。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)でも似たような大籠がつかわれている。かすかな郷愁をもって伸子は目をひかれたのだった。
あれからこれへとごたついて、そのごたごたはどれも下らないことばかりだった。けれども、それらはどうしても出発までに何とか解決されなければならないことで、解決するのは伸子の役目だった。まだ多計代が寝ている寝室だけよけて、台帳をもった家主夫人がアパルトマンの室から室へ調べて歩く事務的なやりかたも、多計代にとっては、パリ生活の最後の日を追い立てられているような感じを与えるだけだった。