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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

それをホテルの戸棚へしめこんで忘れて来たことは、伸子に生きものを忘れて来たようないやな心持をおこさせた。自分につながる素子の存在までを、そのことで何だか無視してしまったようで。――

伸子は階下の客間へおりて行った。ほう、きょうは客間があいている、珍しいんだな、と蜂谷がそこへ伸子を案内しながら云った、その客間では、十五歳になった娘のフランシーヌが、ひとりまえの若い婦人として蜂谷に応対されることをよろこんで、誰か日本人の描いた彼女の肖像画のことを話していた。洗濯工場を経営しているベルネ夫婦は、兄息子のジャックに店を手伝わせ、ましな結婚相手をさがそうとしている母親の考えで、フランシーヌだけは、パリの比較的上流の娘たちが集る女学校へ通学させられているのだった。

「こまったわ、忘れものをして来てしまった」

まじめな心配を顔にあらわして伸子は白い猿のことを話した。

「――どうせ、おもちゃでしょう」

「それはそうだけれど……」

おもちゃ一つのためにそんなにさわぎたてる伸子がわからないという風に、ぷすりとした表情をしている蜂谷と、椅子の背に手をかけたまま立っている伸子とを見くらべて、フランシーヌが、