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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
としてあらわれ、個々の商品はその成素形態としてあらわれる。故にわれわれの研究は、商品の分析をもってはじまる」
伸子の茶色堅表紙のノートのうしろには、幾何を習いはじめる学生のために線、面、立体とわけて、直線、曲線、円、平面、球体、円錐体などの基本図がついていた。それぞれの頁の左に、見出しを書くためだろう、牡丹色の縦線がひかれている。伸子は、蜂谷のいうままに、その帳面をひろげてノートしはじめたが、そこの一区切りへ来たとき、鉛筆をもっていない左の手の先をちょっとあげるように合図して、
「待って下さらない?」
と云った。
「何だか、わたし、こういうやりかた、変だ」
顔をあからめながら、伸子は困った視線で蜂谷を見上げた。蜂谷は、第一日から自分の席は伸子のかけている場所と正反対の煖炉側ときめていて、火の気のない煖炉を横にしてテーブルへ片肱かけ、仮綴の本から、伸子がノートしている文句をよんでいるのだった。
「蜂谷さん、その本にかいてあるとおりを読んで下さっているの?」
「――そういうわけでもないが……」
伸子は自分の率直な質問が蜂谷に与えたショックに気づかず、遠慮するように云った。