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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
蜂谷のぽってりとして、不明確だけれども正直そうな表情を見たら、伸子はかえって気持が自由になり、責任感のようなものを目ざまされた。
「蜂谷さん、少しホームシックなのかもしれないことよ」
ほんとに伸子はそう思った。
「そろそろ、メトロへのりましょうよ。その方が無事よ」
「僕は無事でなんかなくていいんだ」
「だめ! そんな駄々っ子みたいなこと云って……」
伸子は、こだわりの去った笑いかたをした。すると蜂谷良作は、しんからむっとしたような顔を伸子に向けた。
「僕は、決してホームシックなんかじゃない。僕の結婚生活って、そういうんじゃないんだ」
じゃあ、どういうの? 誘われそうになる言葉を、伸子は自制した。日本に暮している蜂谷良作の妻は小児科の女医だった。蜂谷は、いろいろの場合、細君と子供の生活は、彼にかかわりなく自立してゆける方がいいと考えて、そのひとと結婚した。少くとも進歩的な立場で経済学なんかをやってゆこうとすれば、一生のうちに、いつ、どんなことで失職するかもしれない。日本のようなところではもっとわるいことさえ起るかもしれない。それでもいいという人とでなければ、いざというとき、財産もない自分に結婚なんかできない。