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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

国によってみんな具体的な事情がちがう。したがって社会主義へ向うことは疑いないにしたって、一つ一つの過程はどこも同じコースというわけもあり得ない」

蜂谷良作のいうことをきいているうちに、伸子は見えない精神の扉がすーとひらいて、そのすき間から、彼の考えの遠い奥が見えたように感じた。彼は伸子に資本論の講義をはじめ、アメリカの恐慌についてマルクス主義の立場から解説する。その面だけみると蜂谷はマルクス主義者のようだけれども、彼の存在の底には、しつこく絶えず触覚をうごかして、マルクス主義とは別の、何かの道を見出そうとしているものがあるらしい。そういうことができるものなのだろうか。だが現実として彼は、たしかに何かさがしている。蜂谷の生活感情を不安定にしているものの本質は、内心のごくふかいところにあるそのさぐりではないだろうか。もしそうだとすればホームシックなんかではないと彼が伸子に云ったのもうそでない。

三人がいる古ぼけて大きい室の中にこそ静かな夜があるが、往来へ出ればごたついて喧噪なパリの裏町のがらんとしたホテルに、がたついたダブル・ベッドも気にならなそうに納っている野沢。