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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ヴェルダンときいて、とっさに自分も観たいと思った伸子のこころもちは、レーンの小説がそのなまなましい描写とともに、いつかのこして行った、何かの問題の疼きが、計らず目をさまさせられたからだった。
ヴェルサイユ門からモンパルナスまで、パリを南から北へ走る午前七時の地下電車にのりこんで、伸子はしばらくの間、息のつまるようなおどろきにうたれた。車内は労働者の群でぎっしりこんでいる。それはとりたててどんな混雑もない代りにもうこの上三人のひとのはいりこむ余地はどこにもないという事務的な詰りかたで、小柄な伸子の肩は隣りに立っている労働者の荒い縞の上衣の腕の辺にぴったり押しつけられているのだった。伸子が心からおどろいたのは、車内につまってそれぞれ工場へ運ばれている労働者たちが、手に手にひろげているのは「リュマニテ」であるという発見だった。早朝のメトロにのりこんでいるこれらの人々はみんな鳥打帽をかぶっている。カラーをしていない頸筋のところを、パリの労働者らしい小粋な縞のマフラーできちんとつつんで上衣のボタンをかけている。弁当の新聞包みを脇の下にはさんで「リュマニテ」