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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「…………」

「わたしが、ときどき、どうしてこんなにくりかえすんだろう、もうわかっているのに、と思ったりしたのは、生意気至極のことだったと、わかったの」

蜂谷良作は、だまったまま、身じろぎをして灰皿の上でタバコをもみ消した。

「そしてね、もう一つわかったのはね、なぜソヴェトでは今でもレーニン廟へ参る人が絶えないかということ」

ロンドンの夏の日曜日、セント・ポール寺院の、その一段ごとに失業者が鈴なりになっていた正面大階段を見あげる石だたみの広場のはずれに、第一次大戦で戦歿したロンドン市民の記念塔がたっていた。「祖国のために死せる人々の名誉のために」と鋳つけられた記念塔は、セント・ポールに棲んでいるどっさりの鳩の糞をあびて、いかにもきたなかった。ロンドンの晴れた日曜日の風景の中で鳩の糞にまびれていたその記念塔を伸子は思い出した。生きている人は忙しい。痛切に社会のエゴイズムを感じた、その感じも思い出される。伸子のロンドン風景をつづっているのは利根亮輔の怜悧な黒い二つの眼と気のきいた形の鼻ひげの下で伸子に向ってほほ笑んだ独特の微笑である。もしも彼が、こんやこのヴェルダンでおそろしく深い沈黙の中にカルタをしている数人の人間を見ていたとしても、彼はリッチモンド公園の鹿の遊んでいる草原によこたわって、伸子に云ったようにモスク