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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
蜂谷良作は感情の投げ輪を一層つよく投げ、伸子は、なるたけ蜂谷以外のひとたちと行動をともにしようと考えながら、実際につれ立って出歩くのは蜂谷ばかりであったし、しかもその間に伸子は一度ならず蜂谷の投げ繩にとらえられた。彼女自身のうちにわきたつはげしさと同じ分量の疑わしさの間にいつも中途半端にたたずんだまま。伸子はもう自覚していた、自分が正気を失えないことを。そのように正気でありながらも、官能というものはほだされるものだということを。伸子の本心は恋を求めているのだった。愛にまでふかまる恋を。――ほだされている自分。伸子は手鏡をとってしげしげとそこに映る自分をながめた。そこに何か新しい美しさの添えられた顔が見出されるのだろうかと。
十五
ある晩、伸子は三人ぐらいならんで臥られそうな大きい寝台の真白いシーツのまんなかに上半身おき上って、煖炉の白くなった豆炭の奥にのこっているかすかな赤い光をじっと見つめていた。
世帯もちのいいベルネのおばあさんは、葡萄酒をのまない伸子のために、いくらか食卓のたのしみがあるような心づかいをすることはなかったが、クラマールの夜が寒くなってからは、毎晩、白いナプキンできちんとくるんだゆたんぽを伸子の寝床の裾へ入れておいてくれた。