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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
この前のたよりに、素子は五ヵ年計画第一年度の生産予定に成功したモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の様子を活々した筆で知らせてよこした。ぶこちゃんは、きっとおどろくだろうな。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)は変ったよ。アホートヌイ・リャードの闇露店は、すっかり影をひそめたし、いたるところで大建築が開始されている。街は起重機のつき立っている風景だよ、と。
素子は、この手紙でどんなモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の話をしているだろう。この期待は、今夜のような伸子の感情に一層切実だった。ところが、封をきられた素子の手紙から伸子に向って立ちのぼったのは、もうもうとした黒煙であった。伸子が勝手にパリに滞在しているということにたいする非難と怨みごとの末に、このごろまたちょくちょく花をひいている、二晩つづけて、帰って来た部屋でこれを書いているという文句をよんだとき、伸子は、思わずぎゅっとつかんだ素子の腕を、自分の手の下に感じるような激情にとらえられた。吉見素子! 何といういやさだろう。わざと伸子の大きらいな昔の花遊びをしていることを書くなんて――。