轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
眼の中にこの数ヵ月の間、折にふれて燃えた暗い焔がゆれている。伸子は暫く素子の視線を見かえしていた。素子のうらみが伸子にわかるのだった。だけれども、ほんとうには、素子がうらむような何一つないのだ。しずかに素子のそばへ歩いて行った。そして自分の頬っぺたと喉の境のところを素子の鼻さきにすりつけた。
「ね、よくかいでみて――別のにおいがする? 何か、ぶことちがうにおいがする?」
「――ぶこちゃん」
トランクをいじっていた両手はうしろにはなして、顔だけさしよせている伸子を、柔かな部屋着の上から素子が抱きしめた。
「――半分だけ帰って来たなんていうのじゃないのよ」
「わかるよ、わかるよ」
二人はその晩おそくまでおきていた。
夜がふけるにつれて、パリとモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)とをへだてている距離の絶対感が、真新しい刃で伸子の心を一度ならず掠めた。いまは安心して伸子にまかせきっている素子の、こんなにもかぼそい女の手。ウィーンのホテルで自分をつねったり、ぶったりしたこともあるこの指の細い手。自分が帰って来たのは、やっぱりこの手そのものへではない。その意識があんまりまぎらしにくくて伸子は素子の前に瞼をふせた。