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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子は、うすら寒い早春の夜のなかで息のしにくい気持になって来た。伸子は顔をあげて空を見た。星の多い晩だった。夜のふけた星空のところどころに、春の白い雲がある。

列は、正面入口の長旗に飾られた柱列の間を通って、ひとところ開かれている大扉から建物の内部にはいった。扉の左右に赤軍の兵士が守護している。

列は、伸子と素子とをそのなかにつれて大階段をのぼり、まだ防寒靴をはいている人々の、遠慮がちではあるが重い跫音をつたえて広い廊下を徐々にすすんだ。廊下には紫陽花だの、大輪の菊の花だの、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)では貴重な花の鉢が飾られている。高い窓と窓との間の壁にプラカートがはられていた。――自分のすべての詩をお前に、たたかう階級に与える――マヤコフスキーの詩からの言葉だった。

作家クラブの建物の、この大廊下の部分は伸子にとってはじめてだった。一九二七年の十二月にここで「日本文学の夕べ」がもたれたとき、伸子と素子とが案内された入口は、正面の横についている小門からつづいた石じき道の奥の出入口だった。そこからは「夕べ」のもたれた小講堂ばかりでなく、作家組合の事務所へも通じていて、だんだんモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)をひとり歩きするようになった伸子は、一度ならずその入口から組合事務室へ行っ