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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

その上、いまこの六月のブル※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ールを歩いているどこの国のどういうものだか分らないどっさりの女の群のなかの誰が、実際にこんな腕環を買ってその身を飾るというのだろう。

こういう見事な腕環をする女も、パリなればこそどこかにはあるのだろう。これを見るひとはそう思って通りすぎてゆくことは、腕環が当然のことのようにほのめかしている見事な女というものへ幻想をかきたてられる。そういう女が生存するどこかにある生活環境を幻想させる、と伸子は思った。一つの美しい腕環は、所有主のきまらない間に何と多くの通行人にパリのかきたてる幻想を売っているだろう。いつか、どこからか現れる買いては、人々に売られた幻想の分量をふくむ金をそのために支払い、そのことで自分の夢までも買うのだ。

じっと腕環を眺めていて動こうとしない伸子に、素子が、

「えらい御執心ぶりだね」

と、短く笑った。

「もういいだろう? 行こうよ」

「まって。――もうちょっと」

さきへ行かれてしまわないように素子の片手をつらまえながら、伸子がたのんだ。

「『わたしの巴里』ができかかりなんだから。――なんだか、わかりかかって来ているんだから。