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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そのときも、まだ伸子は日曜日なのを忘れていた。待ちかねて、朝かげのゆれている通りをデュトの方へ向って歩いてゆくと、はじめての角から、二人のよそゆきのなりをした少女が白い手袋をはめた手に聖書をもって歩いてくるのに出会った。それを見て、伸子は、ほんとに! きょうは日曜日だった、と気がついたのだった。そうわかると、伸子は一層困惑した。日曜日なら、どこの医者でも休日であろう。磯崎へ歯医者をききにゆくということがそもそも、あてずっぽうなのだった。
やっと一台のタクシーをつかまえて伸子はそれにのった。そして、デュト五八番地と磯崎の住居のある行くさきを告げた。タクシーが、どの通りもしんかんとして人通りもまばらな朝の町を走るうちに、伸子は、ふと妙に思いはじめた。ガリック・ホテルの前からでさえデュトまではタクシーで五分ぐらいのものだった。五分は経った。けれどもタクシーの伸子の目にうつる町すじは見馴れない風景ばかりだった。デュトの附近に似たところと云えば、それらの街すじの貧しげなところや、古くてせまい歩道の向ってに青い鎧戸が寂しくしまっている窓が見えているような景色だった。