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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子はその状態に質問を感じずにいられないのだった。文学と絵画との頂点の向きがあんまりちがっていた。パリでは絵画の芸術至上性が誇大されていてその世界的な市場性が懐疑されなさすぎるようだった。

伸子はパリへ来てから、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にいたときより素子との心のへだたりを忘れた。素子はパリへつくとすぐ、ベルリンにいたときそうであったようにタバコに興味を示した。通の吸うものとされている「マリラン」を試みたり、「ばらの花びらという名をつけられていて、吸口の金箔の上へ深紅色のばらの花びらを巻きつけたエジプト・タバコ――それは、素子のあっさりしたスーツ姿には似合うところがなかった――を見つけ出したりしているのだった。ウィーンで、鞣細工店のショウ・ウィンドウを見おとさなかったように、パリで、素子の金をかけない道楽は柔かい絹のネクタイの、気に入った意匠のものを見つけて、一本二本と買うことだった。それらのネクタイのあるものは素子が自分でつかおうとする分であったし、あるものはモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の友達や教師にみやげにするために見つくろわれた。