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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
素子のために送金そのほか連絡係をしていてくれる東京の従弟の分として選ばれることもあり、時にはまるで誰にというあてもなく、しかし、いつか、どこかにそれをおくるひとが現れでもするかのように、気の利いた水色と白のこまかな市松織のネクタイが買われたりした。素子のネクタイ蒐集は、ウィーンで買ったオリーヴ色の小鞄にしまわれていた。パリの六月の長い金色の夕暮が、あけはなしたバルコンから斜かいに三角の光のよどみを壁紙の裾にとどめているような刻限、また夕飯に出てゆくまでのひとときを素子はよくベッドの上にころがって、ネクタイを眺めなおしていた。だまって、あれからこれへと手にとって、仰向いている目の前にかざして眺めたり、そのうちに起きかえって、自分がそれまでかけていたのをとって、新しい一本ととりかえてみたり。――それは、男のパイプ趣味とはちがった。女が半襟だの紐類だの小物に示す愛情の情景だった。
道楽のない伸子は、となりに並んだ自分のベッドに腰かけてその様子を見ていたり、ときには、上着をとって、ブラウスとスカート姿で、ころがっている素子にくっついて同じベッドにかけ、素子の蒐集の中から伸子に気に入るのをよりわけたりした。