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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
須美子が、ひとりでに自分の心もひらかれるような明るい顔つきで伸子たちの前に入口のドアをあけるとき、次の瞬間には、もっと複雑なかげが彼女の頭の中をかすめるのがわかってから、伸子は素子に云った。
「磯崎さんのところへはあんまり行かない方がいいのかもしれないわね。須美子さんが、気をつかうらしいもの」
しばらく黙っていて素子は、やがて伸子の顔を横目で見ながら、
「磯崎君、不安なのさ」
と云った。そして、うすく顔をあからめて、片手で自分の顎をなで上げるしぐさをした。伸子には、素子のいう意味がすぐのみこめなかった。内面的な波だちを映す素子の癖の一つであるそのしぐさの理由もわからなかった。伸子はだまっていた。説明するように素子がつづけた。
「何しろあたしは、須美子さんを子供の時分から知っている人間だからね」
「――だから?」
「あんまり生活に立ち入られて、登坂氏に、ここでの自分の亭主ぶりを喋られたくないんだろう」
「それもあるかもしれないけれど……」
伸子は、素子をじっと見つめた。でも、どうして素子は顔をあからめたのだろう。どんな考えが素子の心を通りすぎて、彼女の顔をあからめさせたのだろう。