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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
と、つぶやいた。
「磯崎が、いつも申しますわ。わたしの絵は、まるで理論がなくて描くから仕様がないんですって――まだ絵じゃないんですって」
「それで、あなた描くのをやめているんですか」
素子がそういう調子のうちに、伸子は自分も磯崎に対して感じる漠然とした苦々しさがふくまれているのをきいた。
「じゃあ、わたしも絵と云えない絵のすきな人なんだわ。わたしはたいへん須美子さんの絵が好きよ」
「それでいいじゃないか」
意味のふかい一瞥で伸子を見て、素子が云った。
「誰だって、可能性からはじめるんじゃありませんか。わたしのみるところじゃ、現代の巨匠と云われる人たちことごとく、可能性に立って試みをしているというか、或は、試みの可能性の限界をためしているとでもいうしきゃないと思いますがね。――どうして、須美子さんが、自分なりに描いていちゃいけないのかな」
須美子は黙っていたが、また子供を寝かしてある隣室へ行って、八号ほどの一枚の絵をもって来た。縁なしのキャン※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)ァスを自分の絵に重ねて椅子の上に立てかけた。
「――磯崎の絵です。――この間大体仕上げたばかりです」