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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
死んでしまったものにもう死はない。死が生きられているものであるということ、生の価値にかえられて生きつづけられるものだということ。死にようということが、つまりはその人の生きようでしかない。死さえもそのうちにつつむ生の事実は何と豊富であり、厳粛だろう。その生のうちに、社会が存在し、階級が存在する。伸子は、生の厳粛さとして、もし神を信じるものなら、人間のよりよい人生への奮闘を肯定しないではいられないはずだと思うのだった。事実はそうでない。イタリーの法王は、現代の十字軍として反ソ十字軍をよびかけている。そして、キリストの甦りという、彼らにとって基本的な奇跡が、マグダラのマリアというイエスを熱愛した一人の女のはげしい生の欲望を通じてでなければ伝説として生れることさえできなかったのだという、そのきびしい生の肯定を、人さし指に指環をはめた自分たちの手でけがしている。
「さ! ぶこ! 下へ行ってコーヒーでものんで来よう。こんなにしていちゃ、しかたがない」
素子は、伸子の両手をひっぱって、寝台からひきおこした。伸子は、すなおにされるままになった。
「着かえて来るから、その間に顔でもあらっておきなさい。