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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そのことについて、伸子はほとんど顧慮していなかった。

伸子は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の時々刻々を愛し、沸騰し停滞することをしらない生活の感銘一つ一つを貪慾に自分の収穫としてうけいれていた。伸子がウメ子のような友人にかくハガキの文体でも、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来てからは少しずつかわっていた。伸子としてはそれが自然そうなって来ているために心づかなかった。――わたしの住んでいるホテル・パッサージの壁紙もない室の窓は、トゥウェルスカヤ通りに面しています。そう書けば、伸子は、その窓の下に見えていて骸骨のような鉄骨の穴から降る雪が消えこむ大屋根の廃墟の印象をかかずにいられないし、その廃墟をかけば、つい横丁を一つへだてただけで中央郵便局の大工事がアーク燈の光にてらされて昼夜兼行の活動をつづけていることについて、沈黙がまもれなかった。この都会の強烈な壊滅と建設の対照は伸子の情感をゆすってやまなかった。伸子は、厳冬のモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の蒼い月光が、ひとつ光の下に照したこの著しい対照のうちにおのずから語られている今日のロシアの意志に冷淡でいられなかった。