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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「その彼が唯一のたのしみとしている温室のことを、あなたはどういう権利があって、難じるのですか。人間として、母として、私は抑えることの出来ない憤りを感じます。あなたは刻薄な人です。これまで永年の間、私がそれで苦しんで来た佐々家の血統にながれている冷酷な血は、あなたの心の中にも流れています。そのあなたが、ロシアへ行ってからの生活で――」

そこまで読んで、伸子はその手紙を握りつぶしてしまいたい衝動を感じた。多計代は、何という云いかたをするだろう。伸子が佃と結婚すれば結婚してから、離婚して吉見素子と暮すようになれば吉見と暮すようになってから、伸子は冷酷になったとばかり云われて来た。ロシアへ来れば、多計代は偏見や先入観を一点にあつめて、ロシアへ行ってから伸子はいよいよ刻薄になったと云うのだ。多計代にとって伸子が暖い人間だったことは、一度もないらしかった。多計代にとって冷酷でないのは、保のような気質しかないのだろう。伸子は、蒼い顔になって、読まない手紙をしばらく手にもっていたが、やがて、しずかにそれをテーブルの上においた。投げだすよりももっと嫌悪のこもったしずかさで。